RAOという
手術について

私はこのRAOという手術を神奈川リハビリテーションセンターの村瀬鎮雄先生に教えていただいてから35年以上になります。

従来は田川式RAOや大転子を切離する村瀬式RAOが主流でしたが、最近では、長谷川らの提唱するERAOや前方からのアプローチで寛骨臼の骨切りを行う内藤らの提唱するCPOが加わり、同様な目的を持つ寛骨臼骨切り術が多種にわたっています。

RAOとうい手術は、骨切りを行う寛骨臼の後方には上殿動脈からの分枝、遠位には閉鎖動脈からの分枝が股臼に向かって走行しており、また股臼の内方には閉鎖神経、前方には大腿神経や外側大腿皮神経、後方には坐骨神経が走行しており、間違ってそれらを傷つければ、取り返しのつかない合併症を生じかねない極めて難しい手術なのです。

従来型のRAOは、田川や村瀬により比較的合併症の少ない手術として広く行われてきました。

一方で新しく紹介されているERAOや内藤式PCOには、その長所たる魅力も認められますが、股臼内方に切り込んでいくという、大きなリスクを伴う手技であり、術後の知覚障害や神経障害といった合併症が少なからず発症する手術であることを認識し、合併症を生じさせない手技の習得が必須な手術方法なのです。

一方で、田川式RAOや村瀬式RAOの特徴は、寛骨臼荷重部の十分な水平化や遠位化を得るために、寛骨臼の骨切り部に塊状の骨移植を行なうことが必要となり、この塊状の骨移植によって寛骨臼骨切り部分には比較的多くの骨の間隙を生じることになり、術後の出血量が増える要因になり、骨の間隙を埋めるためにさらに多くの骨移植を必要とします。



私のRAO手法は、村瀬式RAOの手法に2つの工夫を加えています。

一つは、寛骨臼頭側の骨切りにおいて、ノミの刺入角度を変えることで、骨切りされた腸骨と回転する寛骨臼の間に骨移植をしなくても、十分な回転と遠位方向への脚延長効果が得られるようにしたことです。

二つ目は、他の手法にはない骨切り方法ですが、恥骨枝を骨切りする際に第2の骨切りを頭側に向けて行い、臼底に腸骨内板がより広く残るように工夫を加えたことです。

この骨切りの操作では、骨盤内の血管・神経への侵襲を可能な限り避け、そして術後の骨盤腔の変形や産道の狭小化を生じさせないようになりました。

術中の出血量も平均160ml位で、RAOとしては理想的な骨切りに近づいたと考えています。

図はRAOの時の寛骨臼の骨切り線(①)とノミの刺入方向(②)

図は骨切り方向を工夫して、臼蓋骨切り部の骨移植を不要にしていることを示しています。

図は恥骨枝の骨切りの工夫で、第2の骨切りを加えることによって、臼底の骨が広く残り、より安全な骨切りとなっています。

図は新たな骨切りをするようになって、臼底の骨が広く残るようになったことを示しています。