自分が考える理想の
人工股関節手術とは

① 機種について

現在人工関節を固定する仕方に2種類あり、骨セメントを使ってとめるものと骨セメントを使わないで、人工関節と骨とが直接結合するセメントレスといわれるタイプがあります。

どちらにも一長一短があります。

私はポーラスコーティングといって金属ビーズを数層かさねてつけたセメントレス人工関節を使っています。

ポーラスコーティングというザラザラした表面の中に、自分の骨が入り込んでしっかり固定される人工関節です。

この強力な固定性が、活動性が高くてもすばらしい除痛効果を生み出しています。

私は、以前はAML型という遠位固定型のセメントレス人工股関節を用いていましたが、最近では、サミット(SUMMIT)というチタン製の近位型のポーラスコーティングステムの人工股関節を用いています。

デザインとコーティングが工夫され、近位部だけのコーティングでも非常に強い固定性が獲得されるインプラントです。

症例数は500例を超えましたが、疼痛の訴えがなく、ゆるみなどの兆候を認めていません。

骨セメントを用いる人工股関節も使用方法が改善されて、ゆるみの心配がかなり少なくなってきました。

しかしながら、骨セメントはしっかり固定されているうちは、疼痛も少なく良好に経過しますが、長い年月の中でゆるむ可能性が必ずあります。

どちらのタイプの人工股関節を使われるにせよ、正確な手術手技、正確なセメントテクニックが求められます。
② 正確な位置への人工関節カップの設置と適度な大きさの骨移植

臼蓋形成不全を有し、大腿骨頭が亜脱臼といって、本来の股関節より外上方に変位している股関節症では、元の正しい股関節の位置にカップを設置することは、長期間の安定した成績を獲得するためには必須のことと言えます。

股関節の元の正しい場所にカップを設置することに関しては、実際に手術で正しい場所を認識することは難しく、多くの経験と繊細な技術を必要とします。

残念ながら全国の有名な股関節外科医でも人工股関節をばらばらな位置に設置しているのが現状です。

人工股関節を元の正しい股関節の位置にカップを設置することは、亜脱臼の程度がすくなければ、カップの直上に骨頭から得られる骨の小片を埋め込めば良いのですが、亜脱臼の程度が大きければ、骨頭を利用した骨移植が必要なのです。

術中に観察される変形した股関節です。この状態から正しい元の股関節の位置にカップを設置することが要求されます。この状況で認められる変形した股関節の中心は、実際の正常な股関節の中心を示してはいません。

正確に正常な股関節の中心に臼蓋ソケットを設置するテクニックを示しています。手術中に臼蓋掘削の手順をきちんと行い、解剖学的なメルクマールを把握して、カップの中心・骨棘・骨移植すべき場所をしっかり認識することが大切です。

大腿骨頭から臼蓋に骨移植するときの方法を示しています。骨頭を適度な大きさの三日月状に切って、裏面が臼蓋のカーブにあうように削り、臼蓋の不足部分を補うようにします。

このX線写真は55歳女性の両側THRです。大腿骨が上方へ偏位していたため、カップを正しい位置に設置した場合の骨移植を大きすぎず、小さすぎずにすることが要求されることを示しています。患者さまは可動域、除痛効果、歩行能力など結果に極めて満足している訳です。

③ THR術後の後方脱臼を防ぐ工夫

手術における股関節への進入法は前方と後方のアプローチが主なものですが、手術後の脱臼のリスクを減らすために前方からのアプローチを選択する術者が増えています。

しかしながら、前方から進入してTHAを行うことは、手術の視野が狭く、臼蓋の不足に対する骨移植がしにくく、正確なカップやステムを設置が難しいと考え、現在でも後方からアプローチを選択する医師が多く存在しています。

後方アプローチでのTHA手術には手技の工夫が必要です。1)関節包を大腿骨頚部付着部から剥離するようにして股関節内に進入し、関節包の頂点・大腿骨頚部・坐骨枝を結ぶL字状に切開する。2)人工関節挿入後、股関節頂点から大転子部までの関節包を縫い合わせ、大転子に穴あきのキルシュナー鋼線で3個の穴をあけ、非吸収糸を通過させて、関節包を一度縫ってから、再度骨溝を通して大転子上で縛り付ける。3)大転子部の梨状筋その他の外旋筋群を修復する。1~3)の操作によって、後方の軟部組織はほぼ元の状態に修復されます。